脳卒中急性期の栄養管理の実践 (1-1) -
第2章 脳卒中急性期の栄養管理の実践
出典元:書籍「脳卒中の栄養療法」/株式会社 羊土社1.脳卒中急性期における栄養療法の考え方( 山本 拓史 )
- 1-1 従来の栄養管理の問題点と対策
- 1-2 経腸栄養開始のタイミングと投与量
- 1-3 脳卒中急性期の栄養評価と指標
2.脳卒中患者における製剤選択の注意点( 小野寺 英孝 )
3.重症度別の栄養管理( 山本 拓史 )
4.嚥下機能とリハビリテーション( 永野 彩乃 )
5.併発症・合併症と栄養管理( 栗山 とよ子 )
6.こんなとき,どうする?
- Q1: 経腸栄養を開始したら,下痢になってしまいました.
どのように対応したらよいでしょうか? ( 山口嘉美,山本拓史 ) - Q2: 経腸栄養投与後,嘔吐してしまいました.
どのように対応するのがよいでしょうか? ( 山口嘉美,山本拓史 ) - Q3: 経管経腸栄養を開始しましたが,目標投与量を投与できません.
静脈栄養を併用したいのですがどのようなことに気をつけたらよいでしょうか? ( 水口雅貴,山本拓史 ) - Q4: 絶食が続いた後に経腸栄養を始める場合の注意点はありますか? ( 鈴木英子,山本拓史 )
- Q5: 急性期治療後,血清アルブミン値(Alb)が急激に低下しました.
どう対応するのがよいでしょうか? ( 高山卓也,山本拓史 ) - Q6: 胃瘻造設を家族に拒否されました.どのように対応しますか? ( 鈴木英子,山本拓史 )
本コンテンツは書籍『脳卒中の栄養療法』(2020年2月発行/羊土社)を基に制作しており、掲載内容は書籍に記載された内容となります。
- 従来の栄養管理では,誤嚥回避のために経腸栄養の開始が遅れ,結果的に腸管機能低下を招いた
- 脳卒中急性期においても,速やかな経腸栄養の導入が重要である
- 年齢や脳卒中の病型に応じた栄養療法を実践しよう
- 脳卒中患者では,潜在的な耐糖能異常を有するリスクが高いため,高血糖に注意しよう
- 重症例では侵襲性ストレスを考慮し“overfeeding”を回避しよう
1-1 従来の栄養管理の問題点と対策
1) 誤嚥性肺炎の回避が優先された経緯
脳卒中は脳梗塞,脳出血,くも膜下出血に分類されるが,それぞれの病態は大きく異なる.薬物治療中心の脳梗塞に対してくも膜下出血の多くは外科的治療の対象となるなど,それぞれの疾患に対しその治療法もさまざまである.しかしながら,従来の栄養療法では病態別に栄養管理が行われることは少なく,脳卒中(脳血管障害)として一群の病態として扱われ,必ずしも病態に対して最善の栄養療法と言えない事例も少なくなかった.その一例として,脳卒中患者の摂食障害や嚥下障害が問題となる.嚥下障害,摂食障害の原因として,意識障害のために自発的な食事摂取が不可能なことや呼吸抑制や術後管理の目的で気管挿管や人工呼吸管理を行うために経口摂取が不可能なことが挙げられる.また,軽症例であってもろれつ障害,構音障害を伴う嚥下障害をきたしやすく,さらにはめまい発作や頭蓋内圧亢進を原因とする嘔気,嘔吐症状も摂食障害の一因となる.結果として,原因の如何を問わず脳卒中では経鼻胃管を用いた経管栄養をせざるを得ない症例が多く,同時に他疾患と比較し誤嚥のリスクが高いこともあり,いかに誤嚥性肺炎を回避するかに重きが置かれた管理が一般的に実践された経緯がある.