脳卒中回復期・維持期の栄養療法 (5) -
第3章 脳卒中回復期・維持期の栄養療法
出典元:書籍「脳卒中の栄養療法」/株式会社 羊土社1.脳卒中回復期の栄養管理( 吉村 芳弘 )
2.脳卒中後嚥下障害に対する嚥下機能訓練( 高畠 英昭 )
3.フレイル/ サルコペニアへの対応と対策( 吉村 芳弘 )
- 3-1 サルコペニアの概念・定義の変遷?
- 3-2 フレイルとは
- 3-3 サルコペニアの定義:EWGSOP2より
- 3-4 症例発見とスクリーニング
- 3-5 サルコペニアを判定する測定項目
- 3-6 サルコペニアの分類とサルコペニアに関連した状態
- 3-7 サルコペニアの対策
- 3-8 おわり
4.回復期から維持期への移行期における栄養管理( 西岡 心大 )
5.こんなとき,どうする?( 西岡 心大 )
- Q1: リハビリテーションに伴い活動量が増加した場合の栄養管理のポイントは?
- Q2: 食思不振がみられた場合はどのように対応したらよいか?
- Q3: 嚥下調整食が必要な方が自宅退院する場合に注意すべきポイントは?
- Q4: 自宅に経腸栄養剤を宅配してほしいときはどうすればよいか?
本コンテンツは書籍『脳卒中の栄養療法』(2020年2月発行/羊土社)を基に制作しており、掲載内容は書籍に記載された内容となります。
- 脳卒中後嚥下障害による嚥下機能訓練の対象者の大部分は発症時に意識障害や重度の神経症状を呈する重症患者である
- 急性期では,早期に覚醒を促し座位保持や従命ができるようにすることと,口腔機能・咽頭機能を維持することを目指す
- 早期離床・口腔ケアを行いながら簡単な指示に従えるようになったらすぐに経口摂取を開始する
- 回復期では補助栄養からの離脱と食形態のアップを目指す
- 脳卒中患者への積極的嚥下機能訓練で呼吸器感染症は減少する
2-1 脳卒中後に嚥下機能訓練が必要となるのはどんな患者?
1)軽症脳卒中の嚥下障害は自然に改善する
脳卒中後には多くの患者に嚥下障害が起こる.一般的に,嚥下造影検査による評価で,脳卒中発症直後に約50%の患者に嚥下障害が認められるが,その後自然に改善し,半年後には約10%のみが残存すると信じられている1).しかしながら,よく考えると,嚥下造影で嚥下障害があると判定された患者でも,食事形態を変えたり,食事時の体位を調整したりすることで経口摂取ができることがほとんどである.したがって,このようなデータが脳卒中後の嚥下障害の実態を反映しているのであれば,嚥下障害は自然に改善するので,訓練は不要であり,脳卒中後に経口摂取できなくなる患者はほとんどいないということになる.
一方,論文から離れて,われわれが臨床現場で実際に治療にあたる脳卒中患者では,急性期・回復期・生活期のどのステージにおいても,経口摂取困難な重度嚥下障害者を頻回に見かける.事実,多くの慢性期における調査でも嚥下障害の原疾患として最多のものが脳卒中であり2,3),胃瘻の原疾患として最多のものも脳卒中である4,5).このような,論文の世界と実臨床における実態との乖離はどこから生じているのであろうか.
脳卒中発症半年後に10%しか嚥下障害は残存しないとされるデータの元になる対象者は,発症直後から嚥下造影や水飲みテストによる嚥下機能評価を受けることのできる患者である.つまり,入院後すぐに座位保持が可能で指示に従うことのできる軽症者である.軽症脳卒中患者の多くは,入院後速やかに食事摂取が可能となり,短期間で自宅退院となる.急性期病院から直接自宅退院となる患者は,地域により若干の変動はあるものの,脳卒中全体の40~50%程度にあたり,ごく一部の例外を除いて,嚥下機能訓練の対象とはならない(ただし,発症当初にはその多くに嚥下障害がある可能性があるため,食事を開始する際には注意が必要である).