【医療従事者対象】これで完璧! 褥瘡ステージ判定~定義や分類、ケアのポイント~ -
寝たきりなど体位変換のない状態が長く続くと、体重で圧迫されていた部分の血流が悪くなり、皮膚に様々な影響が及び、褥瘡を形成します。褥瘡が今どの段階で、どこまで症状が及んでいるのかを知ることは、適切な褥瘡ケアのためには欠かせない要素です。
本コンテンツでは、褥瘡の一般的なステージ分類とその定義、またケアの仕方について解説します。
監修者からのメッセージ
岡山済生会総合病院 内科 がん化学療法センター 主任医長 犬飼道雄先生
褥瘡、いわゆる「床ずれ」ですが、これは放置すると皮膚に穴が開いてしまったり、命にもかかわる状態になったりする、重大なものです。そのため、多職種が関わる褥瘡対策チームが設けられており、褥瘡の発生予防と発生してしまった場合のケアに努めています。
褥瘡が発生してしまったら、悪化させずに早めに適切な対応をとることが重要です。そのためには、褥瘡の重症度、ステージを正しく判断する必要があります。
ここでは、褥瘡のステージ判定に一般に用いられる分類や、その分類を理解するためのポイントについて紹介します。ぜひご一読いただき、褥瘡の予防やケアに生かしてください。
褥瘡とは
褥瘡の重症度分類
NPUAP/EPUAP分類による褥瘡のステージ分類
DESIGN-R®2020による褥瘡の深達度分類
NPUAP/EPUAP分類とDESIGN-R®2020による褥瘡の深達度分類の対応表
褥瘡発生後のケア
褥瘡の予防ケア
まとめ
引用・参考文献
褥瘡とは
「褥瘡(じょくそう)」は、寝たきりなどによって、体重で圧迫されている場所の血流が悪くなったり滞ることで、皮膚の一部が赤い色味をおびたり、ただれたり、傷ができてしまうことです。一般的に「床ずれ」ともいわれています1)。寝たきりの高齢者に多く、また好発部位は尾骨や仙骨の部分と報告されていますが2)、けがや病気などで体を動かせない状態になれば、誰でもなる可能性のあるものです。発生部位も、かかとや耳など、体重がかかることのある部位にはすべて発生する可能性があります。
褥瘡の発生要因
褥瘡は体を長時間圧迫するために起きるので、最も多い発生要因としては寝たきりの状態が長く続くことであると考えられます。このような褥瘡を自重関連褥瘡といいますが、他に医療機器による圧迫が原因となる医療関連機器褥瘡というものがあります。他には、不適切な薬剤投与によって無動の状態になり、それによって発生する褥瘡である薬剤誘発性褥瘡3)というものもあります。
基礎疾患やケガ、薬剤の影響などで体位変換ができない状態が長く続き、そこに危険因子として栄養状態の悪化や皮膚の脆弱性などが加わると、褥瘡の発生に至ります。
褥瘡の好発部位
日本褥瘡学会による実態報告では、褥瘡が起きる部位として最も多かったのが仙骨部で、一般病院、介護老人福祉施設で約4割にみられました。次に多い部位は、施設によって異なりますが、踵部、尾骨部、大転子部などが報告され、骨突出が目立つ部位が褥瘡ができやすい部位になります2)。
褥瘡の判定方法
ごく初期の褥瘡の症状は、皮膚表面の赤みのみです4)。そのため、他の皮膚疾患としっかり区別して、初期の段階から褥瘡を正しく判定することが重要です。
褥瘡による赤みには、消退せずに持続するという特徴があるため、この特性を生かしたガラス板圧診法、指押し法という方法が褥瘡の判定方法としてよく知られています5)。ガラスや透明なプラスチックの板、あるいは指で赤みのある部分を軽く圧迫し、赤みが退くかどうかを確認します。赤みがなくなって白い肌に戻る場合は、褥瘡ではありません。
褥瘡の重症度分類
褥瘡は表皮から真皮、皮下組織と体の内部に向かって進行していくため、一般的に深さで重症度を分類します。
どのような基準で重症度分類を行うのかについては、古くからさまざまな分類法が提唱されてきました(表)。
現在では、欧米の団体が共同で作成したNPUAP/EPUAP分類が広く用いられています。
表:褥瘡の主な重症度分類
1959年 | Campbell分類 | 皮膚の発赤から、症状の深達度に応じて7段階に分類 |
1975年 | Shea分類 | 組織への障害の度合いによって、4段階に分類 |
1981年 | Daniel分類 | Shea分類にさらに1段階加えて5段階に分類 |
1988年 | IAET | 消退しない発赤~筋層、関節、骨まで達する組織破壊の4段階に分類 |
1989年 | NPUAP分類 | 消退しない発赤~皮膚の損失と深部組織破壊の4段階に分類 |
1998年 | EPUAP分類 | 消退しない発赤~深部組織破壊(皮膚の損失は問わない)の4段階に分類 |
2009年 | NPUAP/EPUAP分類 | NPUAP、EPUAPによる分類 |
NPUAP/EPUAP分類による褥瘡のステージ分類
現在広く用いられているNPUAP/EPUAP分類では、従来の4段階に、深部損傷褥瘡(DTI:deep tissue injury)、判定不能の2つのカテゴリが追加されました。
- カテゴリ/ステージⅠ:消退しない発赤
- カテゴリ/ステージⅡ:部分欠損
- カテゴリ/ステージⅢ:全層皮膚欠損
- カテゴリ/ステージⅣ:全層組織欠損
- 深部組織損傷(DTI)疑い
- 判定不能
ステージⅡ以下は真皮までの欠損である浅い褥瘡、ステージⅢ以降は真皮を超えて障害が及ぶ深い褥瘡です。
このようにNPUAP/EPUAP分類は褥瘡がどの深さまで進行しているかを指標としているため、それ以外の大きさや感染の有無といった評価はできないことに注意が必要です。
カテゴリ/ステージⅠ:消退しない発赤
消退しない発赤を伴う、損傷のない状態の皮膚です。
発赤のある部分に、痛みや熱感・冷感がある場合があります。皮膚の色が紫色や栗色の場合は、ステージⅠではなくDTIである可能性があるので注意しましょう。
この段階では、まずは発赤のある部分を保護し、適切に保湿することが重要です。
ステージⅠの変化は、皮膚の色素が濃い人の場合は見つけづらいことがあります。
カテゴリ/ステージⅡ:部分欠損
表面の発赤のみであったステージⅠがさらに進行し、真皮が部分的に欠損して浅い潰瘍が形成された状態です。皮下出血やスラフ(水分を含んだ柔らかい黄色調の壊死組織)は伴いません。
水疱がある場合は破らずに、ポリウレタンフィルムやドレッシング剤を用いて表面を保護します。
カテゴリ/ステージⅢ:全層皮膚欠損
皮膚組織が欠損して、皮下脂肪が露出した状態です。
スラフが付着していたり、ポケット(皮膚の下にできた空洞)を伴う場合があります。
このステージからは深い褥瘡となりますが、後頭部やかかとにできた褥瘡の場合、皮下組織がない部位のため浅いままの褥瘡となる場合があります。一方で皮下脂肪が多い部位では、深い褥瘡となってしまうことがあります。この段階でも、外用薬やドレッシング剤で褥瘡部分を保護し、適度な湿潤環境を形成することが有効です。
カテゴリ/ステージⅣ:全層組織欠損
皮下組織が欠損して、骨や腱、筋肉まで露出した状態です。スラフのほかに、エスカー(乾燥して硬くなった黒い壊死組織)がみられ、多くの場合ポケットを形成します。
このステージでは骨や筋肉が目に見え、触れることができる状態です。そのため骨髄炎を引き起こすことがあります。
深部組織損傷(DTI)疑い
従来の4段階に新たに加えられた概念で、皮下の軟部組織が損傷した状態のことです。皮膚表面が赤ではなく紫色や栗色に変化することが特徴です。皮膚変色のみであるため軽症と思われがちですが、時間の経過とともに深い褥瘡へ変化していくため、注意が必要です。
皮膚の色以外の特徴として、皮膚温度の変化(周囲の部分に比べて温かい・冷たい)、硬結、痛みなどの特徴があるため、DTIが疑わしい場合は注意深く触診や観察を行いましょう。
判定不能
皮膚組織が完全に欠損し、黒色や黄色の壊死組織で覆われている状態。壊死組織があるため深達度を正確に反映することができないため、判定不能とされます。
深さを判定するには壊死組織を完全に除去しなければなりませんが、多くの場合、ステージⅢまたはⅣの深い褥瘡であるようです。
DESIGN-R®2020による褥瘡の深達度分類
DESIGNは、日本褥瘡学会による褥瘡状態判定スケールとして2002年に開発されました。深さ以外に、浸出液、サイズ、炎症/感染、肉芽組織、壊死組織、ポケットの全7項目(表)から褥瘡の重症度を分類し、また治癒までの経過をわかりやすく数値化することができるスケールです。
発表から何度かの改訂を重ね、現在ではDTI疑いなど最新の知見を取り入れたDESIGN-R®2020が、現場で広く用いられています。
表 DESIGNの評価項目
D:Depth | 深さ | 褥瘡の深さを評価 |
E:Exudate | 滲出液 | ガーゼに付着した滲出液の量を評価 |
S:Size | 大きさ | 皮膚損傷範囲の大きさを評価 |
I:Inflammation/Infection | 炎症/感染 | 炎症/感染の状態で評価 |
G:Granulation | 肉芽組織 | 良性肉芽組織の量で評価 |
N:Necrotic tissue | 壊死組織 | 壊死組織の柔らかさで評価 |
P:Pocket | ポケット | ポケットの広さで評価 |
ここでは、DESIGN-R®2020の重症度評価項目より、深さ(Depth)について紹介します。
DESIGN-R®2020における深さの評価基準
DESIGN-R®2020では、褥瘡の深さを
- 創の縁と底の段差の有無
- 創の底に見える組織
の2点で判定します(図)。
創がないDTI疑いは、視診や触診、血液検査の結果などから判断します。
どこまでが損傷を受けているかによって、以下の8段階に分類されます。
d0:皮膚損傷・発赤なし
d1:持続する発赤
d2:真皮までの損傷
D3:皮下組織までの損傷
D4:皮下組織を超える損傷
D5:関節腔、体腔に至る損傷
DDTI:深部損傷褥瘡(DTI)疑い
DU:壊死組織で覆われ深さの判定が不能
NPUAP/EPUAP分類とDESIGN-R®2020による褥瘡の深達度分類の対応表
NPUAP/EPUAP分類とDESIGN-R®2020による深達度分類の対応は、下記の表のようになります。
NPUAP/EPUAP分類 | DESIGN-R®2020 | 概要 |
---|---|---|
― | d0:皮膚損傷・発赤なし | 発赤のない、健康な皮膚 |
カテゴリ/ステージⅠ:消退しない発赤 | d1:持続する発赤 | 発赤のみ |
カテゴリ/ステージⅡ:部分欠損 | d2:真皮までの損傷 | 真皮までが損傷された状態 |
カテゴリ/ステージⅢ:全層皮膚欠損 | D3:皮下組織までの損傷 | 皮下組織まで損傷され、皮下脂肪が露出した状態 |
カテゴリ/ステージⅣ:全層組織欠損 | D4:皮下組織を超える損傷 D5:関節腔、体腔に至る損傷 |
皮下組織がすべて欠損し、筋肉や骨が露出した状態 |
深部組織損傷(DTI)疑い | DDTI:深部損傷褥瘡(DTI)疑い | 軽症に見えるが深部組織にダメージが及んでいる可能性 |
判定不能 | DU:壊死組織で覆われ深さの判定が不能 | 表面が壊死組織で覆われており正確な深達度を判定できない |
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