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褥瘡評価スケールの種類とDESIGN-R®2020による評価方法【医療従事者対象】 -

褥瘡評価スケールの種類とDESIGN-R®2020による評価方法【医療従事者対象】
褥瘡、いわゆる床ずれは、自力での体位変換が難しい患者さんに起こりやすいもので、放置すれば生命をおびやかす恐れもあるような重大な病態です。そのため、重症度を正確に評価し、適切な治療計画を立てることが重要です。本コンテンツでは、褥瘡の治療計画に欠かせない評価スケールの使い方を解説します。

褥瘡は、自分の体重で圧迫されていた部分の血流が滞ることで、皮膚が壊死したり、潰瘍ができるものです。このような褥瘡の病態をよく知ることで、重症度を正確に評価し、適切なケアを行うことができます。
本コンテンツでは、褥瘡の重症度評価のために必要な知識についてご紹介します。

監修者からのメッセージ

岡山済生会総合病院 内科 がん化学療法センター 主任医長 犬飼道雄先生
社会の高齢化に伴い、褥瘡は医療従事者にとって重要な課題となっています。日頃から発生予防に努め、発生してしまった場合は、適切に対処して重症化を予防しなければなりません。
適切な対処法を決定するには、患者さんの状態を知ることはもちろん、褥瘡のさまざまな病態をよく理解して、重症度を正しく評価することが必要です。
ここでは、褥瘡の重症度判定に用いられるツールの概要や、その使い方をご紹介します。ぜひ、日常の業務にお役立て頂ければと思います。

目次

褥瘡評価の重要性

褥瘡評価の目的は、褥瘡の重症度を正しく知ることです。
褥瘡の治療には、医師や看護師以外にも、薬剤師や栄養士、理学・作業療法士など、様々な職種が関わります。各職種が褥瘡の重症度を正しく知り、それぞれの立場から適切なケアを考えることで、効果的な褥瘡治療が可能になります。
また褥瘡の治療は、外用薬やドレッシング材を使う場合や、外科的治療が行われる場合など、多岐にわたります。治療方針によって最適な治療法は異なり、また患者さんによっても治療の進み具合は異なります。どのような患者さんでも最適な治療を提供するためには、チーム内で決まった基準に沿った褥瘡評価を行うことが重要だと考えられます。

褥瘡評価スケールの種類

褥瘡評価に用いられるスケールにはいろいろな種類がありますが、褥瘡の発生リスクを評価するスケールと、褥瘡発生後にその重症度を評価するスケールの2種類に大別されます。
様々なスケールの特徴を知り、適切なものを選べるようにしましょう。

【褥瘡予防】発生リスクを評価するスケール

褥瘡の発生予測に既存のスケールを使用することは、国内のガイドラインでも推奨されています。個人の知識のみで判断するよりも、スケールを用いて発生予測を立てる方が、褥瘡発生率が低減できる、とされています1)
ガイドラインでは、ブレーデンスケールを始めとして、以下のようなスケールが紹介されています。患者さんの年齢や状態によって、適しているものは異なります。

  • ブレーデンスケール:「知覚の認知」「湿潤」「活動性」「可動性」「栄養状態」「摩擦とずれ」の6項目で構成され、各項目についてもっとも悪い~もっとも良いで評価し、合計点が低いほど褥瘡リスクが高くなります。
  • 褥瘡発生危険因子:基本的動作能力(できる/できない)、病的な骨突出、関節拘縮、栄養状態の低下、皮膚湿潤、皮膚の脆弱性(浮腫)、皮膚の脆弱性(スキン-テアの保有、既往)(いずれもなし/あり)の8項目のうち、一つでも「なし」または「できない」があると、褥瘡対策のための診療計画の作成対象となります。
  • OHスケール:寝たきりの高齢者に適したスケールです。
  • K式スケール:寝たきりの高齢入院患者に適したスケールです。
  • ブレーデンQスケール:小児の褥瘡発生予測に特化したスケールです。
  • SCIPUSスケール:脊髄損傷患者さんのためのスケールです。
  • 在宅版褥瘡発生リスクアセスメントスケール:K式スケールに、家族等の介護力評価を加えたスケールで、在宅療養患者さんに用いられます。

【褥瘡発生後】重症度評価に使用する分類およびスケール

予防に努めていても褥瘡が発生してしまった場合、まず必要になるのはどこまで褥瘡が進行しているか、重症化しているかを評価することです。
褥瘡の重症度は主に創の深さで評価されますが、以下のような様々な分類があります。臨床現場で広く用いられているDESIGN-R®2020は、国内はもちろん、国際的にも高く評価されています2)

  • NPUAP/EPUAP分類:米国および欧州の団体が共同で作成した分類で、カテゴリ/ステージⅠ:消退しない発赤、カテゴリ/ステージⅡ:部分欠損、カテゴリ/ステージⅢ:全層皮膚欠損、カテゴリ/ステージⅣ:全層組織欠損と、深部損傷褥瘡(DTI)疑い、判定不能の6項目に分類しています3)
  • DESIGN-R®2020:日本褥瘡学会が開発した褥瘡評価に特化したスケールで、状態の評価と経過の評価の両方を行うことができます2)

DESIGN-R®2020とは

DESIGNは、日本褥瘡学会が2002年に開発した褥瘡評価用のツールです。当初は、重症度分類用・経過評価用の2つのDESIGNが策定されました。
最初の開発から、最新のエビデンスや現場の状況を取り入れ、改定が重ねられています。

DESIGN-R®改訂の経緯

  • 2002年:「重症度分類用」「経過評価用」の2つのDESIGNが策定される
  • 2008年:「DESIGN-R®褥瘡経過評価用」に改定される
    • 深さ以外の6項目を重み付けすることで、重症度の絶対的評価が可能になる
    • 治癒過程の定量的評価が可能になる
  • 2013年:サイズ測定に関する要件を追加
    • 急性期の重症度評価にも対応できるように、持続する発赤のサイズ測定についての説明文が追加される
  • 2020年:最新の知見を取り入れる
    • ガイドラインとの整合性をとり、また注意すべき症状について現場に意識化してもらうために「深部損傷褥瘡(DTI)疑い」および「臨界的定着疑い」を追加

日本褥瘡学会編: 改訂DESIGN-R®2020 コンセンサス・ドキュメント.第1版.東京:照林社;2020.より作成

DESIGN-R®2020におけるDTI疑いと臨界的定着疑い

DESIGN-R®2020で新たに追加されたものが、深さ(Depth)に対する「深部損傷褥瘡(DTI)疑い」、炎症/感染(Inflammation/Infection)に対する「臨界的定着疑い」です。
それぞれについて解説します。

  • 深部損傷褥瘡(DTI)疑い
    深部損傷褥瘡とは、一般的には「初期の段階では軽症の褥瘡に見えるが、時間の経過とともに深い褥瘡に変化するもの」と定義されており、皮膚表面は紫色、または栗色に変色するとされています。
    臨床現場でも、最初に「浅い褥瘡」と評価されたにもかかわらず重症化する事例が多くみられたため、急性期でも深部組織の損傷を見逃さず判断することができるように、DESIGN-R®2020への追加に至りました。
    DTIは皮膚表面からは観察されにくいため、視診だけでなく触診、血液検査や画像診断などの補助データを合わせて総合的に判断することが推奨されています。
    DTIには、触れると周辺組織と比べて硬かったり、「泥のような浮遊感」があるという特徴があります。また褥瘡部の温度が周囲よりも高いという所見があるため、サーモグラフィーの活用も有効であると考えられます。
  • 臨界的定着疑い
    臨界的定着疑いは、創の治癒遅延を引き起こす重要な病態として近年着目されていますが、ガイドラインにおいても明確には定義されていません。DESIGN-R®2020では、「創面にぬめりがあり、滲出液が多い」と記載されています。
    臨界的定着の状態では、創面で細菌がバイオフィルム(微生物の集合体)を形成して、創表面に細菌が定着してしまっています。この状態では、感染徴候がなくても創の治癒が進まないという問題があります。
    このような状態に気付かずに同じケアを繰り返すことで、治癒が遅延するという問題が現場で多く見られるようになったため、臨界的定着を見逃さず認識してもらうために、DESIGN-R®の評価項目に追加されました。

DESIGN-R®2020の評価方法と書き方

ここからは、DESIGN-R®2020を使用した具体的な褥瘡の評価方法について解説します。
DESIGN-R® 2020では、従来のDESIGN-R®と同様、褥瘡の深さ、浸出液、大きさ、炎症/感染、肉芽組織、壊死組織、ポケットを判定して重症度や経過の評価を行います。
各項目は下記のようなアルファベットで示され、小文字よりも大文字の方が重症度が高く、深さ以外の合計点数が大きいほど、重症度が高くなります。

評価項目 アルファベット
重症度:高い 重症度:低い
深さ Depth D d
滲出液 Exudate E e
大きさ Size S s
炎症/感染 Inflammation/Infection I i
肉芽組織 Granulation G g
壊死組織 Necrotic tissue N n
ポケット Pocket P p

評価結果は、D→E→S→I→G→N→Pの順序となるように、各項目の大文字と小文字を組み合わせて記載します。
合計点数に含めない深さ(D)とそれ以外を区別するために、DとEの間にはハイフンを入れ、最後のポケット(P)の後ろにコロン(:)を入れ、合計点数を記載します。

記載例
D3-e1s6i0g3n0P6:16点

こちらの例は、

  • 深さはD3(皮下組織までの損傷)
  • 滲出液は少量(e1)
  • 皮膚損傷範囲の長径×短径(cm)が4cm以上16cm未満(s6)
  • 炎症徴候なし(i0)
  • 良性肉芽が創面の50%~90%未満(g3)
  • 壊死組織なし(n0)
  • ポケットの長径×短径(cm)が4cm未満(P6)

であることを示しています。点数は、各評価項目の数字を合計した点数です。

評価項目:深さ(Depth)

DESIGN-R®2020では、褥瘡の深さを

  • 創の縁と底の段差の有無
  • 創の底に見える組織

の2点で判定します(図)。
創がないDTI疑いは、視診や触診、血液検査の結果などから判断します。

図:DESIGN-R®2020での深さの定義

どこまでが損傷を受けているかによって、以下の8段階に分類されます。

図:深さの採点方法

日本褥瘡学会編: 改訂DESIGN-R®2020 コンセンサス・ドキュメント.第1版.東京:照林社;2020.より作成

深部損傷褥瘡(DTI)疑いの評価方法

DESIGN-R®2020に新たに追加された項目の一つが、深さ(Depth)の評価基準の一つであるDDTI:深部損傷褥瘡(DTI)疑いです。
表面からでは正確な病態がわからないDTIは、以下の複数の手法を組み合わせてアセスメントを行います。

  1. 視診
    DTI疑いを含む急性期の褥瘡の皮膚所見は、発赤、紫斑、浮腫、水疱、びらん、浅い潰瘍などです。
  2. 触診
    DTIは、周辺の部位と比較して硬結がある、泥のような浮遊感、温度の変化(熱い/冷たい)、疼痛、といった特徴があるとされています。
    皮膚温の変化については、サーモグラフィーが補助的な判断に有効です。
  3. 画像診断
    組織内部を評価できるため、画像診断は有用である場合があります。また褥瘡に合併した軟部組織感染症の評価にも使用されます。X線単純写真、CTやMRI、超音波画像診断法等が使われます。
  4. その他
    血液検査によるバイオマーカー(クレアチンホスホキナーゼCK)の評価、深達度判定のための外科的デブリードマン(壊死組織の除去)、毎日の経時的な観察なども、DTI疑いのアセスメントには有効です。

評価項目:滲出液(Exudate)

滲出液は、ドレッシング材やガーゼに付着した滲出液の量で判定します。
目安として、1日1回の交換でもドレッシング材から滲出液があふれ出る場合はE6、1日2回のガーゼ交換でごく少量の滲出液が付着する程度の場合はe1と判定します。

e0 滲出液なし
e1 少量(毎日のドレッシング交換を要しない)
e3 中等量(1日1回のドレッシング交換を要する)
E6 多量(1日2回以上のドレッシング交換を要する)

評価項目:大きさ(Size)

皮膚の損傷範囲の長径と短径(cm)を掛け合わせた数値で判定します。
イメージとして、円形の創で直径2cm未満をs3、4cm未満をs6、6cm未満をs8、8cm未満をs9、10cm未満をs12、10cm以上をS15と考えるとわかりやすいでしょう。
大きさを測定する際は、毎回同一の体位で、肉眼的に外から見える皮膚損傷を測定します。

s0 皮膚損傷なし
s3 4未満
s6 4以上、16未満
s8 16以上、36未満
s9 36以上、64未満
s12 64以上、100未満
S15 100以上

評価項目:炎症/感染(Inflammation/Infection)

炎症は、創周囲の発赤、腫脹、疼痛を伴う局所の組織反応、感染は生体内に侵入した細菌が増殖したことにより、さらに排膿、悪臭、発熱を呈した状態と定義されます。
創面のぬめり、多量の滲出液がある場合は臨界的定着疑いと判定します。

i0 局所の炎症徴候が見られないもの
i1 局所の炎症徴候が見られるもの(創周囲の発赤・腫脹・熱感・疼痛)
I3C 臨界的定着が疑われるもの(創面にぬめりがあり、滲出液が多い、肉芽があれば、浮腫性で脆弱など)
I3 局所に明らかに感染徴候が見られるもの(炎症徴候、膿、悪臭など)
I9 全身的影響が見られるもの(発熱など)

改善しないポケットがある場合などに、デブリードマンが提案されています。ただし、適応の決定には褥瘡部分の状態や創の縁の状態、患者さんの痛みへの耐性などを総合的に判断することが必要です。

臨界的定着疑いの評価方法

臨界的定着は、細菌の定着と感染の間の状態と考えられ、治癒が停滞してしまうことが問題となっています。
臨床現場では見落とされることが多かったようですが、DESIGN-R®2020の判断基準として追加されたことで、褥瘡に対応する医療従事者が臨界的定着状態を認識し、それに準じた対応をとって治癒を促進させることが期待できます。
臨界的定着は、下記のような手法でアセスメントします。

  1. 視診
    臨界的定着以外でもみられるような所見ではそれと判断できないため、複数の所見を組み合わせた「創面にぬめりがあり滲出液が多い。肉芽があれば、浮腫性で脆弱」という所見が、DESIGN-R®2020では提唱されています。
  2. 細菌学的検査
    細菌数は臨界的定着と判断することはできないため、確定診断として組織生検による細菌学的検査を行うことは推奨されません。一方、臨界的定着の特徴であるバイオフィルムは、検出ツールを用いて比較的容易に検出することができます。
    視診・触診による所見の他に、このような補助ツールを組み合わせて判断することが可能になっています。

評価項目:肉芽組織(Granulation)

創面に占める良性肉芽組織の割合で判定されます。
浮腫がみられたり、色が白っぽい、暗赤色といった肉芽組織は不良組織と判定されます。

深さの評価がd0:皮膚損傷・発赤なし、d1:持続する発赤の場合は、肉芽組織の判定はg0となります。DTI疑いの場合も、基本的にg0と判定されます。

g0 創が治癒した場合、創が浅い場合、深部損傷褥瘡(DTI)疑いの場合
g1 良性肉芽が創面の90%以上を占める
g3 良性肉芽が創面の50%以上90%未満を占める
G4 良性肉芽が創面の10%以上50%未満を占める
G5 良性肉芽が創面の10%未満を占める
G6 良性肉芽が全く形成されていない

評価項目:壊死組織(Necrotic tissue)

壊死組織の有無や柔らかさで判定します。
様々な状態の壊死組織が混在している場合は、全体に多いもので判定します。

n0 壊死組織はみられない
N3 柔らかい壊死組織あり
N6 硬く厚い密着した壊死組織あり

評価項目:ポケット(Pocket)

ポケットの広さは、潰瘍とポケットを含めた範囲を外形として、その長径と短径(cm)を掛け合わせた数値を算出し、そこからS:大きさで測定した数値を引いたもので判定します。
大きさを測定する際は、毎回同一の体位で、ポケット部に綿棒などを入れて開口範囲を確認して行います。

p0 ポケットなし
P6 4未満
P9 4以上、16未満
P12 16以上、36未満
P24 36以上

褥瘡評価後の流れ