薬剤の使用が腸内細菌叢に及ぼす影響とプレバイオティクス -
目次
経腸栄養不耐症のリスクとなりうる腸内細菌叢の乱れ
疾患や年齢を上回る薬剤と腸内細菌叢との密接な関連
腸内の病原菌を増加させるポリファーマシー
投与薬剤数が腸内の短鎖脂肪酸産生能力に及ぼす影響
薬剤投与を休止すると腸内細菌叢の状態は回復する
プレバイオティクスを利用した経腸栄養剤が消化器症状の改善に寄与する可能性
乳清たんぱく質もEFI改善をサポート
引用文献
経腸栄養不耐症のリスクとなりうる腸内細菌叢の乱れ
経腸栄養管理における重要な課題に、下痢や胃食道逆流などの経腸栄養不耐症(Enteral Feeding Intolerance:EFI)への対応が挙げられる。EFIは経腸栄養患者に頻繁にみられ、栄養状態や臨床転帰に悪影響を及ぼす可能性がある4)ため、予防や改善のための取り組みが求められる。腸内細菌叢の乱れ(ディスバイオーシス)はEFIの因子の一つと考えられており、経腸栄養患者を含む多様な疾患を有する患者に生じることが報告されている3)。EFI発症の抑制には、患者の腸内細菌叢の状態を良好に保つことが重要である。
疾患や年齢を上回る薬剤と腸内細菌叢との密接な関連
経腸栄養患者は背景となる疾患に対し投薬治療を受けていることが少なくない。薬剤が腸内細菌叢に影響を与えることは以前より報告されている5,6)が、2022年に発表された日本人を対象とする研究2)では、疾患や生活習慣などを含むメタデータと腸内細菌叢の情報を組み合わせた大規模なデータベースの構築を通じて750種類以上*にも上る薬剤と腸内細菌叢との関連が詳細に明らかとなった。
*解剖治療化学分類(Anatomical Therapeutic Chemical Classification:ATC)第5レベルに基づく
多彩なメタデータと腸内細菌叢ゲノムデータを
組み合わせた国内大規模調査研究
Nagata N, et al. Gastroenterology. 2022;163(4):1038-52.
- 対象:
- 2015年に開始された日本版4D(Disease, Drug, Diet, Daily life)マイクロバイオームプロジェクトに参加した日本人4,198例。
- 方法:
- アンケート、面接および電子カルテ記録より収集したメタデータ(身体測定因子、喫煙、飲酒、食習慣、身体活動、疾患および薬剤)と被験者が 自宅で採取した糞便サンプルのメタゲノム解析結果を用いて、多変量回帰分析を用いて両者の関連性を統計解析した。さらにペアのWilcoxon順位和検定を使用した2時点分析により、薬剤投与開始後または休止後の腸内細菌叢の変化を評価した。