経管栄養とは?種類別のメリット・デメリット・実施手順・注意点などを解説 -
医療や介護の現場において、経管栄養は日常的に行われている栄養補給法です。経管栄養にはさまざまな種類があり、病態に応じて使い分けることができます。ここでは経管栄養を基礎から復習し、自施設内で行われている手順の意味を理解したり、トラブルが起きたときに適切に対処したりするためのヒントを得られるように、分かりやすく解説していきます。
監修者からのメッセージ
佐々木 雅也 先生(甲南女子大学医療栄養学部医療栄養学科 教授/滋賀医科大学 客員教授)
“When the gut works, use it !”(腸が働いているなら、腸を使おう!)の原則を臨床現場で実行するには、経管栄養の知識と経験が必要です。適切な経管栄養を計画・実施して、腸を使うメリットを最大限に得ましょう。ここでは基本的な経管栄養の初歩的な知識をまとめています。正しい知識に基づいて経験を積み、自信を持って患者さんの栄養状態の改善や回復、健康を支えられるようになってください。
経管栄養とは
経管栄養とは、鼻から胃・幽門後(十二指腸、空腸)に届く管、または消化管瘻(胃瘻や腸瘻)を用いて経腸栄養剤を投与する栄養補給法のことです。
栄養補給法は大きく経腸栄養(enteral nutrition:EN)と静脈栄養(parenteral nutrition:PN)に分けられます。経管栄養は経口摂取(口から飲食物を食べる)と同様に「腸を使う」栄養投与経路なので、経腸栄養に位置づけられています。
栄養投与経路を決めるときの原則は “When the gut works, use it !” です。すなわち、腸が動いていて安全に使用できる場合は経腸栄養を選択します。
腸を使うと、腸管の機能(粘膜、免疫能、蠕動運動、消化管ホルモン分泌など)を維持できたり、バクテリアルトランスロケーション(腸内細菌や毒素が腸管内から全身に移行すること)を回避したり、侵襲からの早期回復が期待できるからです。
そのため、腸が使えて、口から食べることが可能であれば経口栄養を選択します。経口からの摂取量が少なく栄養量が不足している場合は、その分を経腸栄養剤で補う経口的栄養補充(ONS)を行います。
腸が使える状態にもかかわらず、嚥下障害や意識障害、上部消化管のがんによる通過障害などがあって口から飲食物を摂取できないときや、消化管の安静が必要な場合などには経管栄養が選択されます。経管栄養による栄養投与の期間が4週間以内ならば鼻からチューブを入れる方法(経鼻アクセス)を選択し、それ以上の長期間にわたることが想定される場合は胃瘻や腸瘻といった経瘻孔法を選択します。
一方、腸が機能しておらず安全に使用できない場合は静脈栄養を行います。腸が機能していない状態、すなわち完全腸閉塞、高度の消化管狭窄(口側の消化管の拡張を伴った狭窄、瘻孔などを合併した狭窄病変など)、消化管からまったく吸収できない状態(短腸症候群など)では経腸栄養は禁忌です。また、バイタルサインが安定しない重症症例や難治性嘔吐・下痢、活動性の消化管出血などがある場合は経腸栄養の相対的禁忌です。
静脈栄養も実施期間に応じて投与経路を選択します。原則として、末梢静脈栄養(PPN)は長くても10日~2週間にすべきであり、2週間以上にわたり静脈栄養のみで栄養管理をする場合は中心静脈栄養(TPN)を選択します。静脈栄養を施行していても、消化管の機能が回復すれば早期に経腸栄養を併用することが望ましいです。また、経腸栄養のみでは栄養量が不足する場合は、静脈栄養で補うことも検討しましょう。
経管栄養法の種類
経管栄養法とは、腸が使える状態にもかかわらず、嚥下障害や意識障害、通過障害などがあって口から摂取できない患者さんに栄養補給をする方法です。口の代わりに消化管にアクセスするための管を用いて経腸栄養剤を投与します。
栄養補給法として最も優れているのは経口摂取ですが、それができない場合に腸を使える方法が経管栄養法です。腸を使うと腸管機能の維持や早期回復が期待できます。
経管栄養法を行うためには、消化管アクセスルートを確保することが必要です。施行期間や誤嚥リスクに応じて、適切なルートを選択しましょう。
経管栄養法による栄養剤投与が短期間(4週間以内)で済むと見込まれる場合は、経鼻アクセスを選択します。誤嚥のリスクがない場合は「経鼻胃管栄養法」を選択します。誤嚥リスクがある場合は「経鼻十二指腸栄養法」や「経鼻空腸栄養法」が有用です。
一方、経管栄養法による栄養剤投与が長期間(4週間以上)にわたりそうな場合は、経瘻孔法を選択します。誤嚥のリスクがない場合は「胃瘻」が第一選択です。誤嚥リスクがある場合は「空腸瘻」も選択できます。いずれの場合も消化管瘻を造設する手術・手技が必要となります。胃瘻を造設する手段としてPEG(経皮内視鏡的胃瘻造設術)があり、その施行が困難ならば外科的胃瘻造設術やPTEG(経皮経食道胃菅挿入術)が検討されます。空腸瘻ではPEG-J(経胃瘻的空腸瘻)や外科的空腸瘻造設術が行われます。
このように、経管栄養法を行う際には管の挿入や交換、消化管瘻の造設が必要となり、静脈栄養(特に末梢静脈栄養)よりも手間がかかります。また、経鼻カテーテルは患者さんにとって不快や苦痛を伴うことがあります。また誤嚥につながったり、交換の際に気管に誤挿入したりするリスクがあります。消化管瘻では皮膚トラブルへの対応が大切です。
しかし、経管栄養法は静脈栄養よりも生理的な投与法であり、感染などの合併症が少ないことがメリットです。腸を使うことで腸管機能の維持や早期回復も期待できますので、“When the gut works, use it !” の原則通り、腸が安全に使用できる場合は静脈栄養ではなく経腸栄養を選択すべきです。
経鼻経管栄養法とは
経鼻経管栄養法(けいびけいかんえいようほう)とは、腸は使えるものの口から摂取できない状態が短期間(4週間以内)であると見込まれる患者さんに使用される栄養補給法です。
経鼻経管栄養法では、口の代わりに消化管にアクセスするための管を用いて経腸栄養剤を投与します。誤嚥のリスクがない場合は鼻から胃に通す管を用いる「経鼻胃管栄養法」を行います。一方、誤嚥リスクがある場合は鼻から幽門後(十二指腸・空腸)まで通す管を用いる「経鼻十二指腸栄養法」や「経鼻空腸栄養法」を検討します。
【経鼻経管栄養法】メリット
静脈栄養法と比較して、経鼻経管栄養法には下記のようなメリットがあります。
- 生理的な栄養補給法である
- 腸管機能(粘膜、免疫能、蠕動運動、消化管ホルモン分泌など)が維持できる
- 感染などの合併症が少ない
- バクテリアルトランスロケーションを回避できる
- 侵襲からの早期回復が期待できる
胃瘻と比較して、経鼻経管栄養法には下記のようなメリットがあります。
- 挿入が簡便である
【経鼻経管栄養法】デメリット
静脈栄養法と比較して、経鼻経管栄養法には下記のようなデメリットがあります。
- 管の挿入・交換などの手間がかかる(特に末梢静脈栄養と比較して)
- 投与方法や経腸栄養剤などによっては消化器症状(悪心・嘔吐、腹部膨満、下痢、便秘)が起こることがある
ただし、これらのデメリットがあるからといって、安易に静脈栄養法を選んではいけません。腸が安全に使用でき、口から食べられない状態で短期間(4週間以内)の栄養補給法が必要な場合は経鼻経管栄養法を選択すべきです。
胃瘻と比較して、経鼻経管栄養法には下記のようなデメリットがあります。
- 挿入している経鼻管による不快感や苦痛
- 鼻に管が入っているので、見た目に重篤感を与えてしまう
- 管が細いので経腸栄養剤等が詰まりやすい
- 管が抜けやすく、誤嚥等の事故につながりやすい
- 管の挿入が困難な人がいる
【経鼻経管栄養法】事前準備
経鼻経管栄養法を行う際には、病態に合った経腸栄養剤とそれを体内に入れるための器具を準備する必要があります。
経腸栄養剤は、個々の栄養剤の組成を検討したうえで、個々の患者さんの病態に合ったものを選択しましょう。詰め替えて投与するタイプ(オープン・システム)の経腸栄養剤ではデカンター(ボトル、バッグ、イリゲーター等)が必要です。詰め替えの必要のないバッグ詰めの製品(クローズド・システム)もあります。
経腸栄養剤を胃もしくは幽門後に投与するために挿入する経鼻栄養チューブ(カテーテル)は、できるだけ患者さんの違和感や不快感を減らすために細いものを選択します。成分栄養剤なら5~8Fr、半消化態栄養剤では8Frを目安とします。材質はポリウレタンやシリコンを選びましょう。塩化ビニル製のチューブは留置すると硬くなるので長期の留置には向きません。挿入後、鼻から出ているチューブは下向きにして鼻翼に接触しないように固定(エレファント・ノース型)し、清潔に保ちましょう。
経鼻胃管を入れる際には、チューブ先端の位置確認としてX線での確認が原則です。X線の設備がない場合は吸引物のpH(4以下)で確認する方法も行われています。空気注入音を上腹部で確認する方法では、気道や食道に誤挿入していることに気づかないことがあります。幽門後に留置するときは専用のチューブを使用し、X線透視下で行うことをおすすめします。
経腸栄養専用注入ポンプがあると、投与速度を厳密に設定することができます。経鼻胃管栄養法で病状が安定しており、間欠的に投与する場合は必要ありませんが、侵襲下にある場合や経鼻十二指腸・空腸栄養法の場合は必須となります。
【経鼻経管栄養法】手順
まず、経腸栄養剤の投与前に、患者さんに「今から栄養剤を入れますね」などと声をかけて意志を確認するとともに、病態の変化(発熱、消化器症状など)がないかどうかをチェックしましょう。なお、誤嚥や消化器症状(悪心・嘔吐、腹部膨満、下痢、便秘)については、投与方法や経腸栄養剤を変更することで解決できる場合があります。
誤嚥を防ぐために「5つの確認“まみむめも”」について毎回確認するようにしましょう。
経腸栄養剤の入ったデカンターにチューブをつなぎ、クレンメを操作して栄養剤がチューブ先端まで満たされた状態にします。胃食道逆流を予防するために、上半身を30°以上、できれば45°以上にギャッジアップします(難しい場合は右側臥位)。経腸栄養剤からのチューブと経鼻胃管の先端をつなぎ、ゆっくりとクレンメを開けて栄養剤の注入を開始します。
投与速度は経鼻胃管栄養法の場合、間欠的投与法(1日2~3回)の場合は100~300ml/時の速度で数時間かけて投与します(最初の1時間で特に副作用がなければ500ml/時まで上げることができます)。持続投与法や周期的投与法では、最初は10~20ml/時でゆっくり開始し、副作用がなければ8~24時間ごとに40、60、80、100ml/時と速度を上げていきます。また、半固形化した栄養剤を投与する際に用いられるボーラス投与(1日2~3回)では30分以内に全量を投与することができるので、介助者の負担を軽減させることができます。
一方、経鼻十二指腸・空腸栄養法の場合はダンピング症候群や消化器症状を予防するためにポンプを用いた持続投与法(10~100ml/時)となります。初回は10~20ml/時でゆっくり投与し、次第にスピードを上げていきますが、100ml/時を超えないようにします。
経腸栄養剤の投与が終わったら、クレンメを閉めてチューブを外します。経鼻胃管を清潔に保つために、シリンジと白湯20~30mlを用いてフラッシュ(勢いよく注入)します。キャップを閉めて、チューブを固定します。投与後1時間は体位をギャッジアップしたままにしましょう。
【経鼻経管栄養法】よくあるトラブルへの対応法
経鼻経管栄養法を施行する中でトラブルが起こることがあります。
経鼻チューブの圧迫によって、接している部分に皮膚炎が起こったり、咽頭や食道に潰瘍ができたり、副鼻腔炎や中耳炎などをきたすことがあります。チューブの素材や太さ、固定方法が適切かどうか確認しましょう。経鼻経管栄養法が長期にわたる場合は、経瘻孔法への切り替えを検討しましょう。
チューブが閉塞することがありますので、予防のために水による洗浄を十分に行いましょう。10倍ほどに希釈した食酢を充填して閉塞や汚染を予防するという方法もあります。また、カード化した汚れを落とすために1%重曹水を用いて洗浄・充填することもあります。持続注入の場合は4時間ごとに20~30mlの白湯でフラッシュしましょう。
消化器症状が出ると経管栄養をあきらめがちになりますが、体位と投与速度、経腸栄養剤を見直すことで改善することはよくあります。
悪心・嘔吐、腹部膨満については、30°以上のギャッジアップ、水分の前投与(経腸栄養剤の前に水を投与する)、投与速度を遅くする、注入ポンプを使用する、半固形状の経腸栄養剤を用いる、上部消化管運動を促進する薬剤を用いる、経鼻空腸栄養法に切り替えるという方法があります。
下痢・便秘については、適正な温度で投与すること、投与速度を遅くする、浸透圧を低くする、食物繊維を添加する、半固形状の経腸栄養剤を用いる、水分投与量を見直すなどの対策があります。安易に下剤や止痢薬を使うのではなく、要因の把握に努めましょう。
また、代謝性の合併症として、高血糖、低血糖、電解質異常、脱水、高尿素窒素血症、必須脂肪酸欠乏などが起こり得ます。生化学的モニタリングを行って、これらを予防しましょう。投与開始時には毎日~週1回、慢性期では2週に1回の頻度で測定することが望ましいです。
経瘻孔法(胃瘻)とは
経瘻孔法(けいろうこうほう)とは、腸は使えるものの口から摂取できない状態が長期間(4週間以上)に及ぶと見込まれる患者さんに使用される栄養補給法です。消化管と外部をつなぐ孔(瘻孔)を作り、そこから経腸栄養剤を投与します。胃に瘻孔を作れば「胃瘻」、十二指腸なら「十二指腸瘻」、空腸なら「空腸瘻」となります。
経瘻孔法を行う場合は、手術をして瘻孔を造設する必要があります。胃瘻を作る手段として比較的負担の少ないPEG(経皮内視鏡的胃瘻造設術)がよく行われており、PEGが行いにくい場合は外科的胃瘻造設術、もしくは首から食道へチューブを挿入し、胃まで送り届けるPTEG(経皮経食道胃菅挿入術)が選択されます。空腸瘻ではPEG-J(経胃瘻的空腸瘻)や外科的空腸瘻造設術が行われます。
【経瘻孔法(胃瘻)】メリット
静脈栄養法と比較して、胃瘻には下記のようなメリットがあります。
- 生理的な栄養補給法である
- 腸管機能(粘膜、免疫能、蠕動運動、消化管ホルモン分泌など)が維持できる
- 感染などの合併症が少ない
- バクテリアルトランスロケーションを回避できる
- 侵襲からの早期回復が期待できる
経鼻経管栄養法と比較して、胃瘻には下記のようなメリットがあります。
- チューブによる違和感がない
- チューブの事故抜去少ない
- 胃瘻ボタンやチューブの交換は、バンパー型の場合4~6か月ごとでよい
- 半固形状の経腸栄養剤が使用できる
【経瘻孔法(胃瘻)】デメリット
静脈栄養法と比較して、胃瘻には下記のようなデメリットがあります。
- 管の挿入・交換などの手間がかかる(特に末梢静脈栄養と比較して)
- 投与方法や経腸栄養剤などによっては消化器症状(悪心・嘔吐、腹部膨満、下痢、便秘)が起こることがある
ただし、これらのデメリットがあるからといって、安易に静脈栄養法を選んではいけません。腸が安全に使用でき、口から食べられない状態で4週間以上の栄養補給法が必要な場合は経管栄養法を選択すべきです。
経鼻経管栄養法と比較して、胃瘻には下記のようなデメリットがあります。
- 胃瘻を開始する前に、手術して造設する必要がある
- 皮膚トラブルや腹膜炎等の合併症リスクがある
【経瘻孔法(胃瘻)】事前準備
経瘻孔法(胃瘻)を行う場合は、手術をして瘻孔を造設する必要があります。ここではPEG(経皮内視鏡的胃瘻造設術)について簡単に説明します。PEGでは内視鏡で胃に空気を送り込んでふくらませ、胃壁を腹壁にくっつけて最短距離で瘻孔を作ります。
造設方法として主に「プル・プッシュ法」と「イントロデューサー変法(セルジンガー法)」があります。近年は、胃瘻のカテーテルが口腔を通過しない後者の方法が多くおこなわれています。この他にも一長一短あり、個々の患者さんに適したものが選ばれます。
瘻孔の穴を塞いでおくデバイスには、胃内のストッパーの形状により「バンパー型」と「バルーン型」があります。バンパー型は4~6か月に1回の交換で済み、抜けにくいことが利点ですが、交換時に苦痛を伴うことがあります。バルーン型は1~2か月に1回交換する必要があり、1週間に1回程度はバルーン内に水が充填されているかを確認する必要がありますが、交換が簡単で苦痛もほとんどないのが利点です。
また、瘻孔から飛び出しているデバイスの形状により「ボタン式」と「チューブ式」に分かれます。ボタン式は見た目が目立たず、運動や日常的な行動を邪魔しにくいのが利点です。チューブ式は造設後にシャフト長を調整できるので、腹囲に変化があっても対応でき、接続チューブが不要です。
胃瘻から投与できる栄養剤には、市販の半固形化栄養剤、市販の液体栄養剤やミキサー食、もしくはそれらに半固形化剤を使って粘度を調節したものがあります。どれを用いるかによって注入法が変わり、液体~低粘度のものは持続注入法もしくは間欠的注入法、半固形化栄養剤やミキサー食は短時間注入法となります。
【経瘻孔法(胃瘻)】手順
投与前にまず、患者さんに「今から栄養剤を入れますね」などと声をかけて意志を確認するとともに、病態の変化(発熱、消化器症状など)がないかどうかをチェックしましょう。胃瘻チューブが抜けていたり、皮膚に食い込んでいないか、接続部が破損していないかも確認します。液漏れがあると周囲の皮膚に炎症が起こるので、それも確認しておきましょう。
胃残量が多い症例では、栄養剤の注入をする10~30分前から胃瘻を開けておき、胃内の空気を抜いておきます(ボタン式の場合は減圧用チューブをつないでおく)。胃の内容物が漏れて汚れないように、チューブ末端にビニール袋をかぶせましょう。前もって空気が抜けなかった場合は、シリンジを用いて胃瘻から空気を抜くこともできます。
胃食道逆流を予防するために、上半身を30°以上、できれば45°以上にギャッジアップします(難しい場合は右側臥位)。
栄養剤の入ったデカンターにチューブをつなぎ、クレンメを操作して栄養剤がチューブ先端まで満たされた状態にします。栄養剤からのチューブと胃瘻のチューブ(ボタン式の場合は専用接続チューブ)の先端をつなぎ、ゆっくりとクレンメを開けて注入を開始します。
投与速度は経鼻胃管栄養法と同様(こちらを参照)ですが、十分な粘度(20,000mPa・秒)の半固形化栄養剤を十分な量(300~600ml)用いて、短時間(5~15分)で注入するという短時間注入法もあり、経口からの生理的な摂取に近い方法です。
一方、経鼻十二指腸・空腸栄養法の場合はダンピング症候群や消化器症状を予防するためにポンプを用いた持続投与法(10~100ml/時)となります。初回は10~20ml/時でゆっくり投与し、次第にスピードを上げていくが、100ml/時を超えないようにします。
栄養剤の投与が終わったら、クレンメを閉めてチューブを外します。胃瘻チューブを清潔に保つために、シリンジと白湯20~30mlを用いてフラッシュ(勢いよく注入)した後に胃瘻を閉じます。投与後1時間は体位をギャッジアップしたままにしましょう。
【経瘻孔法(胃瘻)】よくあるトラブルへの対応法
胃瘻を施行する中でトラブルが起こることがあります。
瘻孔からの液漏れにより、周辺の皮膚が赤くなったり、腫れたりする場合があります。皮膚トラブルに対する治療を行うとともに、予防対策をしましょう。具体的には、十分に洗浄して乾燥させる(胃瘻デバイスと皮膚の間にティッシュをねじって作った「ティッシュこより」を挟む)こと、胃の内容物が停滞して漏れる場合は胃・腸管運動促進薬を用いる、半固形化栄養剤を用いること、皮膚の保湿や保護を行うことがあげられます。
チューブの清潔を保つために、内部に残渣が残らないように十分に洗浄しましょう。酸性に調整した水や食酢のゼリーを充填して汚染を予防するという方法もあります。
チューブが抜けてしまった場合、胃瘻は短時間でふさがってしまうことがありますので、なるべく早く再挿入することが必要です。投与中にチューブ内が詰まってしまった場合はまずフラッシュしてみて様子を見ます。
消化器症状に対しては、半固形状の栄養剤が活用できます。また、経鼻胃管栄養法と同様に、30°以上のギャッジアップ、水分の前投与(栄養剤の前に水を投与する)、投与速度を遅くする、上部消化管運動を促進する薬剤を用いる、適正な温度で投与する、食物繊維を添加するなどの対策があります。
また、代謝性の合併症を予防するために、電解質、血糖、腎機能など定期的に生化学的モニタリングを行うことも重要です。
経管栄養剤の種類
経管栄養で使用される経腸栄養剤(人工濃厚流動食)は「成分栄養剤」「消化態栄養剤」「半消化態栄養剤」の3つに分類されます。また、粘度を高めてより経口摂取に近づけた「半固形化栄養剤」もあります。
これら経腸栄養剤の中から、個々の患者さんの病態に合ったものを選択することが大切です。病態が安定して消化機能にも問題がない場合は一般的な組成の半消化態栄養剤を選択します。また、耐糖能異常時、腎不全、肝不全、呼吸不全といった病態に対応する特殊組成の栄養剤もありますので、必要に応じて選択します。短腸症候群やクローン病の場合には成分栄養剤が有用です。
【経腸栄養剤】成分栄養剤
成分栄養剤は、含まれている成分が化学的に明瞭であることが特徴です。窒素源はアミノ酸、糖質はデキストリンです。脂肪含量が低いため、必須脂肪酸を補給するために脂肪乳剤の併用が必要です。食物繊維が含まれておらず、低残渣です。医薬品として処方できます。
【経腸栄養剤】消化態栄養剤
消化態栄養剤は、消化吸収機能が低下して半消化態栄養剤が使用できない場合や空腸に投与する場合などに使用されます。窒素源はアミノ酸だけでなくジペプチドやトリペプチドが使われており、吸収が早く、小腸粘膜が障害されていても吸収機能が保たれるという利点があります。糖質はデキストリンです。医薬品と食品が販売されています。
【経腸栄養剤】半消化態栄養剤
半消化態栄養剤は、安定した患者さんに使われることが多い経腸栄養剤です。窒素源はペプチドやたんぱく質加水分解物であり、糖質はデキストリンや白糖などが使われており、脂肪も含まれています。半消化態栄養剤の医薬品は数種類に限られますが、食品としては数多くの種類があり、さまざまなニーズに応えられるように工夫された製品がラインアップされています。
例えば、含有する食物繊維を一般的な難消化性デキストリンではなく、発酵性が高いことから下痢・便秘に対する作用が期待できるグアーガム分解物(PHGG)を含有する製品があります。経腸栄養において食物繊維には、排便の改善、胃食道逆流症やダンピング症候群の予防、腸管機能の維持・回復、代謝の調整など、腸管を良い状態に保つという役割があります。そもそも経腸栄養は「腸を使う」というメリットを生かした栄養補給法ですので、食物繊維の投与量と種類を考慮しつつ積極的に用いるとよいでしょう。
【経腸栄養剤】その他の経腸栄養剤
この他、特殊な病態に用いる経腸栄養剤として、肝疾患、肝不全、腎不全、糖尿病、COPD、がん向けの製品があります(医薬品は肝疾患のみ、その他は食品扱い)。
半固形化栄養剤については、半固形状流動食がいくつか市販されています。製品によって濃度や粘度にばらつきがあるので注意が必要です。また、経鼻チューブから注入でき、胃の中で半固形状に変化する「粘度可変型流動食」も登場しています。
- 経管栄養について
よくある質問 -
ここまで経管栄養法について概略を解説してきました。
ここでは経管栄養法についてよく聞かれる質問をいくつか取り上げて説明します。-
- 経腸栄養剤と白湯を入れる順番は?
- 経腸栄養剤と水分補給として白湯や水道水などを投与する場合、決まっている順番はありませんが、先に水分を投与する(水先投与)方が逆流性誤嚥のリスク低減を期待できるのでおすすめです。胃からの排泄時間は栄養剤よりも水の方が2倍以上速いので、先に水を胃内に入れておくと胃内貯留量の減少につながり、逆流を防ぐことにつながると考えられています。
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- 持続投与と間欠的投与はどのように選べばいい?
- 経腸栄養剤の投与タイミングには、食事のように1日2~3回に分けて投与する「間欠的投与法」、夜間もしくは昼間のみ投与する「周期的投与法」、24時間持続投与する「持続投与法」があります。胃内への投与で、消化器症状が問題にならないときは間欠的投与法を選びます。周期的投与法は、例えば日中に経口摂取して不足分を夜間に投与する場合や、昼間のリハビリテーションの時間を確保したい場合に選択されることがあります。持続投与法は腸瘻や経鼻空腸栄養法の場合に基本的に選択される投与法であり、重症者に対しても用いられます。
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- 間歇的口腔食道経管栄養法について教えてください。
- 間歇的口腔食道経管栄養法は嚥下訓練の一つとして位置づけられている投与法です。経腸栄養剤を投与するたびに口からチューブを食道下部へ挿入し、終了後に抜去します。摂食嚥下訓練の過程などにおいて不足している栄養を補充する形で使われます。また、食事のたびにチューブを飲み込むこと自体が嚥下訓練になります。しかし、飲み込む際に絞扼反射が強かったり、食道内投与では逆流のリスクがあったりする場合は適応外です。日本摂食嚥下リハビリテーション学会 医療検討委員会が間歇的口腔食道経管栄養法の標準的手順を公開していますので、詳しくはこちらを参考にしてください。
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まとめ
経管栄養は、腸を使うことができるため、生理的で有用な栄養補給法です。管の挿入や管理、瘻孔の造設、経腸栄養剤の選択や投与など、手間がかかるように思うかもしれませんが、ポイントを押さえて対応すれば、消化器症状や感染などのリスクを抑えながら、腸を使うメリットを最大限に得ることができます。経管栄養の適切な実施を通じて、“When the gut works, use it !” を実現し、多くの患者さんの回復をサポートしていきましょう。
- 参考文献
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- 佐々木雅也 編:メディカルスタッフのための栄養療法ハンドブック改訂第2版,p58-62,南江堂,2019
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- 岡田晋吾 編:キーワードでわかる臨床栄養 令和版,p34,162-164,204-207,217-233,羊土社,2020
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- 山元恵子:経鼻栄養チューブ挿入のリスクマネジメントと教育システムについて.千葉科学大学危機管理学研究科 博士学位論文, 2016
- 日本PTEG研究会 編:PTEG・ピーテグ経皮経食道胃管挿入術の説明を受けられる患者さんおよびご家族の方へ
- 天江新太郎:経腸栄養における食物繊維の役割について.日本重症心身障害学会誌;43(1): 63-69,2018
- 宮澤 靖:栄養剤から見たPEG.静脈経腸栄養;29(4):975-980,2014
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会 医療検討委員会:間欠的口腔食道経管栄養法の標準的手順.日摂食嚥下リハ会誌;19(3):234-238, 2015