乳清ペプチド消化態流動食の有用性 -
- 入院中の低栄養患者は、消化管機能の低下などにより、吸収不良を起こすことがあります。
- 乳清ペプチド消化態流動食は、加水分解された乳清たんぱく質を100%使用し、脂質中の中鎖脂肪酸(MCT)の割合が高く、吸収効率に配慮が必要な患者さんの栄養管理をサポートします。
- プレバイオティクスやn-3系脂肪酸(DHA、EPA)を含有した製品などもあり、幅広い栄養管理ニーズに応えます。
低栄養患者の割合と臨床への影響
吸収不良による低栄養とその原因
乳清ペプチド消化態流動食のメリット
乳清たんぱく質が同化を促進する理由
乳清たんぱく質が経管栄養の忍容性を向上する理由
乳清たんぱく質が抗酸化システムを強化する理由
中鎖脂肪酸(MCT)が吸収不良の病態時に利用される理由
3種類のプレバイオティクスが腸内フローラに役立つ理由
乳清ペプチド消化態流動食の有用性
引用・参考文献
低栄養患者の割合と臨床への影響
入院患者における低栄養の割合は、患者背景および低栄養の判断基準によって異なりますが、22~61%の範囲にあると言われています1-4)。退院時に低栄養状態にある患者の割合は、入院患者の36%5)、集中治療室(ICU)に滞在した患者の58%6)と報告されています。また、高齢者の低栄養の割合は、地域社会で3.1%、外来患者で6.0%、在宅患者で8.7%、老人施設で17.5%、長期療養施設で28.7%、リハビリ/亜急性期医療で29.4%と推定されています(図1)7)。
入院中の低栄養患者は、栄養状態の良い患者と比較して、感染性合併症、呼吸不全、心停止、心不全、不整脈、縫合不全を発症するリスクが有意に高く、基礎疾患およびその治療経過にかかわらず入院期間が著しく長くなることが示されています8)。また回復の遅れ、再入院リスクおよび死亡の増加につながります9,10)。特に血清アルブミン値が3.5g/dL以下では褥瘡発生リスクが高まり11)、2.5/dL未満では、腸管内腔における水分の再吸収を低下させ、下痢を引き起こすとも言われています12)。
吸収不良による低栄養とその原因
吸収不良とは、消化管の変化により、栄養素の消化・吸収、腸管壁への輸送が妨げられ、腸管での吸収率が85%未満である状態を指します。吸収不良の患者では、腹痛や膨満感、下痢や脂肪便、水分や電解質の損失、貧血、骨減少、二次性副甲状腺機能亢進症などが見られます13)。
吸収不良の原因は、消化管機能の低下や消化酵素の産生不足、腸内細菌叢異常、小腸粘膜の障害、小腸の切除などが知られています(図2)。例えば重症患者では、炎症性サイトカインの産生が増加し、栄養素の消化・吸収能力が損なわれます。またサイトカインは、血中たんぱく質(アルブミンなど)濃度を変化させ、内臓の浮腫や組織損傷、それに伴う消化管機能の低下を引き起こすことがあります14)。
長期にわたる低栄養と絶食は、腸粘膜の萎縮を引き起こす可能性があります。粘膜萎縮は、絨毛の高さ、陰窩の深さ、表面積および上皮細胞数などの形態学的変化により特徴づけられます。これらの変化は腸の機能を低下させ、吸収不良を引き起こします15-18)。
乳清ペプチド消化態流動食のメリット
乳清ペプチド消化態流動食は、消化管機能が低下した患者の栄養管理をサポートするために設計されました。加水分解された乳清たんぱく質を100%使用しているペプチドベースの流動食です。乳清たんぱく質は同化を促進し、経管栄養の忍容性を向上させ、有害なフリーラジカルに対する体内の抗酸化システムを助けることが示されています。
乳清ペプチド消化態流動食は、脂質として中鎖脂肪酸(MCT)を40〜60%使用しています。MCTは胆汁酸塩と膵臓酵素を必要とせず、そのまま吸収されるので、吸収不良の病態時にも効率よく利用されます(図3)。
乳清ペプチド消化態流動食のなかには、特定の目的のために機能を追加した製品もあります。有益な腸内細菌の増殖を促進するプレバイオティクスであるフラクトオリゴ糖とイヌリン、グアーガム分解物(PHGG)を独自のブレンドで配合した製品や、炎症反応を調節するのに役立ち、重症患者にも有効と言われるn-3系脂肪酸(DHA、EPA)19)を含有した製品などがあります。
図3.吸収不良の程度と提案される栄養療法
吸収不良の程度 | 提案される栄養療法 |
---|---|
低い | 半消化態流動食 |
中程度 | 中鎖脂肪酸を含む半消化態流動食、難しい場合は消化態流動食を検討 |
高い | 中鎖脂肪酸を含む消化態流動食、目標達成しない場合、静脈栄養を検討 |
非常に高い | 静脈栄養(場合によって成分栄養剤の併用)を検討 |
乳清たんぱく質が同化を促進する理由
たんぱく質の栄養価を測定する方法はいくつかありますが、どの方法で測定しても乳清たんぱく質の栄養価は高水準です。乳清たんぱく質は、大豆、トウモロコシ、小麦グルテンなどの植物性たんぱく質源と比較して、すべての必須アミノ酸をより高濃度で含んでいます20)。また、カゼインや大豆と比較しても、乳清たんぱく質は最も質が高いことが示されています(図4)21)。
乳清たんぱく質は、ロイシン、イソロイシン、バリンを含む分岐鎖アミノ酸(BCAA)の最も豊富な供給源の1つです。BCAAは同化をサポートし、除脂肪体重の増加に役立ちます22-24)。ロイシンは筋たんぱく質合成開始の重要なシグナルであり、m-RNAの翻訳に関与するたんぱく質の活性と合成の両方を高めることによって、骨格筋の合成を促進します24)。実際に、入院中のサルコペニア高齢者における骨格筋量に対する乳清たんぱく質補給の有用性を示す研究があります25)。