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さあ始めてみよう! 食事介助〜準備や実施のポイント、注意点〜 -

さあ始めてみよう! 食事介助〜準備や実施のポイント、注意点〜

食事介助とは、摂食嚥下機能の低下などにより自分一人での食事が難しい患者さんを補助して、「口から食べる」ことを援助することです。社会の高齢化に伴い、口からの食事が難しくなっている患者さんは多く存在しています。加齢や疾患により摂食嚥下機能が低下すると、満足に食事がとれないことによるQOLの低下や低栄養、誤嚥性肺炎や窒息のリスクが高まります。
食事介助は、食事の形態や性状はもちろん、食事をするときの環境や患者さんの姿勢などにも気を配りながら、患者さんに安全に食事を楽しんでもらうための技術です。
本コンテンツでは、食事介助を実践する際のポイントや注意点について解説します。

目次

看護における食事介助の目的

加齢や疾患による摂食嚥下機能の低下は、食事することを困難にするため、患者さんから食べる楽しみを奪うだけでなく、誤嚥性肺炎や低栄養のリスクを高める可能性があります。しかし長期間の絶食は口腔や咽頭の機能低下を引き起こすなどのデメリットがあり、安全な経口摂取が可能であれば、口から摂取することが最も生理的とされています1)。食事介助は、摂食嚥下機能の低下した患者さんが口からより安全に食事できるように援助することで、患者さんのQOL、ひいては将来の全般的健康を守るための技術といえます。

食事介助の対象者

食事介助の対象となるのは、以下のような理由で一人では食事をするのが難しい状態にある患者さんです。

  • 脳梗塞、脳出血、頚部の手術などで摂食嚥下機能が低下した方
  • 遷延性意識障害のある方
  • 姿勢の保持が難しい方
  • 麻痺などのために食具を使えない方
  • 認知症で摂食行動に障害がある方 など

食事介助の流れと注意点

実際の食事介助の流れに沿って、注意事項や実践する際のポイントをご紹介します。

①食事の環境を整える

  • リラックスできる環境を作る。
  • 食事に集中できない場合は、ラジオやテレビを消し、落ち着いた環境を作る
  • 適度な明るさにする(照明などが直接目に入らないように注意する)
  • においはないか確認する(ポ―タブルトイレ、おむつ交換、部屋のカビのにおいなど)
  • テーブルや床に汚れはないかを確認する
  • 周囲の動きなどが気になって集中できない場合は、カーテンやパーテーションを活用する

②姿勢を整える

誤嚥やむせを防ぐためには、きちんとした姿勢で食事をすることが重要です。軽くあごを引いた状態(下あごと前胸部の間を4横指、またはこぶし1つ程度空ける)で、上半身は少し前屈させ、腰・ひざ・足首が90度に曲がった状態が、適度な力が入り飲み込みやすい姿勢です。また、頸部の伸展や体のねじれがないように調整しましょう。座位がとれない場合は、リクライニングができる車いすやベッド上での食事にしましょう。リクライニング車いすやベッド上での食事介助は誤嚥・窒息のリスクが高いため、より注意が必要です。

座位での基本姿勢

イラストのような点に気をつけて姿勢を保持します。足が床につかない場合は、台を使って調節します。テーブルと体の距離はこぶし1つ分程度にし、患者さんの体に密着させます。

車いすでの基本姿勢

座位と同様のポイントを確認しましょう。バスタオルやクッションで姿勢保持できるようにします。また食事の際は、フットレストから足を下ろしましょう。足が床につかない場合は、足台を使います。

リクライニング車いすの基本姿勢

姿勢が保持できない、口腔の動きが悪く、咽頭に送りこめないときは、リクライニング車いすを使用します2)

ベッド上座位の基本姿勢

ベッド上座位の場合も、誤嚥を防ぐために頸部を伸展させないこと、足を安定させることが重要です。

③配膳する

配膳の際は、患者さんが食事に集中できるようにすることを心がけましょう。
具体的に注意するポイントには、以下のようなことがあります。

  • テーブルに汚れのないこと、食事に関係のないものが置かれていないことを確認してから配膳する
  • 食器やエプロンの柄に注意が向いてしまう場合は、無地のものを選択する
  • 複数の食器があることで注意が分散する場合は、コース料理のように1品ずつ配膳する、もしくは仕切りのあるトレー型のお皿や、弁当の箱を利用する
  • 視覚や認知機能に障害のある方の場合、白い器にごはんなど白い食材を盛り付けると見えないことがあるため、色合いに注意する
  • 口に食べ物を詰め込むくせのある方には、食具として小さいティースプーンを提供する、あえて箸を使って時間がかかるように工夫する。また小皿に分けて一皿ずつ提供するのもよい
  • 視覚障害のある方には、どこに何が配置されているのかがわかりやすいように、食具や器の位置をわかりやすい言葉で説明し、介助者と一緒に実際にさわって確認してもらう

食事をする意欲は、食べ物の味や匂いはもちろん、見た目にも左右されます。なるべくおいしそうに見えるように、食器や盛り付け、彩りを工夫しましょう。 特にゼリーやペースト食は色彩が悪くなりやすいため、食べる意欲が低下しがちです。赤や緑の野菜は別添えにして盛り付ける、絞り袋でかわいらしく飾ってみるなど、華やかに立体的に見せるとよいです3)。栄養補助食品もそのまま提供するのではなく、ソースを追加するなど一工夫して、見た目を美しくすることで楽しくおいしく食べていただきましょう。

④食前の確認

経口摂取が可能な状態であることは必須の条件です。以下のような基準を満たしているかどうか、毎食前に確認しておきましょう2)

食前の観察項目

  • 医師が評価し、経口摂取を試みても良いと判断しているか
  • 全身状態が安定しているか(発熱など)
  • 呼吸状態が安定しているか
  • 食事中に覚醒が維持できるか
  • 唾液をむせなく嚥下しているか
  • 十分な咳ができるか
  • 口腔内汚染がないか
  • 口腔内はうるおっているか
  • リスク管理(吸引・救命カートの準備、必要な場合はパルスオキシメーターを装着するなど)が十分になされているか

食前の準備

食事を開始する前に口腔ケアを行うと、感覚や唾液腺への刺激になり、誤嚥性肺炎の予防にもつながります。歯がある患者さんの場合は、口腔内の細菌を減らすために、食前に歯磨き・うがいなどの口腔ケアをします。口腔ケアを行う際のポイントは、「口腔ケア」を参照してください。

⑤食事の介助をする

実際に介助する際は、むせ、誤嚥、窒息が起きないように配慮しながら、患者さんに楽しく、心地よく食事をしてもらうことが重要です。

食事介助の実践

  1. 食事を始める
    • 口を開けられるか、口腔内は清潔かなどを確認し、乾燥している場合は口腔内を潤す
    • 義歯を使っている患者さんの場合は、義歯の装着状態を確認する
    • 患者さんが口を開けてくれないときは、四肢や体幹など口腔から離れたところから触れることで、緊張を和らげる
    • 食事全体を見せ、匂いをかいでもらい、メニューの名前を伝えるなどし、視覚・嗅覚・聴覚などから情報を伝える
  2. 口に食物を入れる
    • 介助者は患者さんと同じ目線の高さになるようにし、座って行う
    • ひと口量は少なめにして、多すぎないように気をつける
    • スプーンや箸は、斜め下から口元へ、食べ物を認識できるように、患者さんの正面で止める
    • スプーンですくった食べ物を見せ、名前を伝え、情報を伝える
    • 口を開けてもらい、スプーンをまっすぐに入れ、舌の中央に置く。しっかり口を閉じてもらい、斜め上方へゆっくり引き抜く
    • 閉じられない場合は、軽く唇を抑え補助する
    • 咀嚼ができているか、嚥下はできたか、誤嚥していないか、口腔内や咽頭に残留していないか、呼吸状態に問題がないかなどを確認して、適切なペースで次の一口を口に運ぶ
    食事中の観察項目2)
    • 頸部伸展や姿勢の崩れはないか
    • 食べ物を口の中でしっかり噛んでいるか
    • 飲み込むときに、口をしっかり閉じているか
    • 口腔内や咽頭に残留していないか
    • 重度のむせや咳、湿性嗄声、呼吸の乱れはないか
    • 痰量の増加など全身状態の変化(SpO2、血圧、脈拍)はないか
    • 意識レベルの低下はないか
    〈頸部聴診の重要性〉

    誤嚥の危険性がある場合は、頸部聴診による誤嚥の有無の確認を行います。嚥下時に咽頭部で発生する嚥下音や呼吸音を頸部から聴診し、特徴やタイミングなどを確認して評価します。ボコボコといった泡立ち音、むせに伴う喀出音、湿性音、嗽音などが聞こえる場合は、誤嚥や液体の貯留を疑います4)

  3. 食事を続ける
    • 疲労に配慮し、摂取エネルギーが足りていない場合は高エネルギーのものから優先して提供するか、少量ずつ数回に分けて提供するかの工夫をする
    • 口に食べ物が残っているうちに次の一口を提供すると、窒息リスクがあるため、患者さんの様子に注意しながら提供する

食事介助での声掛けの役割

食事介助時の声掛けは、患者さんに楽しく食事してもらうためだけでなく、安全確認のためにも必要です。
過剰な声掛けは集中力を低下させるので禁物ですが、以下のようなポイントを守って適切な声掛けを行うようにしましょう。

  • 食事に集中できるように、器の中の食物を見せてタイミングよく声をかける
  • 「おいしそうですね」など、共感的、愛護的な声掛けをする
  • 食事中に眠ってしまうようなら、声をかけて覚醒を促す
  • 口腔内に食べ物があるときは、声掛けをしない(返答するために声を出そうとすると声門も開き、誤嚥しやすくなるため)

食後の確認と注意点

口腔内に残渣物がある場合はきれいに除去します。また、食後すぐに横になると、胃食道逆流による肺炎や、胃排出の遅延、消化不良などのリスクがあるため、食事の姿勢を少なくとも30分保ちます。姿勢保持が難しい場合は、ベッドでギャッジアップした状態で臥床しないように気を付けます。

食後の観察項目2)

  • 口腔内に食物残渣はないか
  • 痰量の増加など全身状態の変化(SpO2、血圧、脈拍)
  • 食後、すぐに横になっていないか(胃からの逆流を防ぐため、食後30分~1時間程度は、横にならずに食事時の姿勢を保つことが必要)
  • 食事量を記録したか

口腔ケア

食後の歯磨きの際、介助者は椅子に座って患者さんと目線を合わせ、あごを引いた状態で行いましょう。介助者が立ち上がって行うとあごが上がってしまい、誤嚥のリスクが高くなります。
義歯は適切に管理をしないと、プラークが付着します。総義歯の場合、プラスティックの土台の裏側(歯肉に接する部分、部分義歯の場合は、金属の留め具周囲に汚れやプラークが付きやすいため、ブラシや洗浄剤を使用して清潔に保ちます2))。

まとめ

口からの食事ができないことは、患者さんの全般的な幸福度を損ないます。食事介助は、患者さんが安全かつ楽しく口からの食事ができるように、食前の準備から食後のケアまでを通じて介助を行うことです。落ち着いて食事をするための環境整備や姿勢の調整から食事中の安全確認、食後の口腔ケアまで、観察すべき項目は多岐にわたります。それぞれのプロセスにおいて、注意すべきポイントをしっかり押さえ、誤嚥やむせが起きないように注意し、患者さんに食事を楽しんでもらうことが重要です。

引用・参考文献

  1. 日本臨床栄養代謝学会 編: 日本臨床栄養代謝学会 JSPENテキストブック. 南江堂,2021,p201.
  2. 三鬼達人 編: 今日からできる!【改訂版】摂食嚥下・口腔ケア, 照林社, 2019, p13(一部改変).
  3. 奥野 麻美子: 医療. 2007;61(2):109-113.
  4. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会:摂食嚥下障害の評価2019
    (https://www.jsdr.or.jp/doc/doc_manual1.html)